その日、ステディをつれて紅葉に染まる三段峡へソロ・ツーリングにでかけた帰 路で、突然MGBのエンジンが一気筒死んでしまったようにバラつきはじめた。 「プラグ・コードがはずれたか」と、たかをくくって点検するが原因不明。そのま ま家路につきガレージで再び点検、やはりわからない。
残る原因は圧縮漏れしか考えられない、と面倒を承知でシリンダー・ヘッドを外 して見たなら、はたして三番シリンダーの排気バルブが小指の爪ほど欠けているで はないか。
考慮のすえ、シリンダー・ヘッドを新調。合わせてピストン・リングをすべて一 新し、懸案だった圧縮漏れに対策を施すことに決定する。
必要な部品をそろえ、自宅ガレージでエンジンを分解したのが、それから三箇月 がたった一月の中旬だった。
都合、三日間を費やして組みなおしたエンジンの試運転を終え、慣らし運転を敢 行すべく予定した日が二月一日。同じMGBを所有する、倶楽部の親友でもある加 納君も時間をさいて同行してくれることになり、プランは一気に『マイルスト ン・・・』へと広がった。
例によってロード・マップを開きルートの検討、交通量の少ない山口県を、いっ さい高速道を使わずに日本海へぬける。秋吉台のカルスト台地を経由し、萩から青 海島、そのまま日本海沿いに西長門へ走り、往復することで四〇〇キロを走破する。
いささか重労働のようだが、走りがいのあるルート設定に、我ら目出たい迷コン ビは胸を躍らせていた。
幸本会員にトランシーバーを借りうけ、橋本会員に慣らし運転の注意事項を尋ね て、仲岡会員に歓喜の予告までして、さて準備万端、ガソリン満タン、出発進 行・・・。
迎えたツーリング当日の朝。
つけっ放したテレビが嫌なことを喋っている。これから走って行く山口市内の積 雪した映像を映しだし、この冬一番がどうのこうのとアナウンサーがやりながら、 やがて画面は天気予報に切りかわった。
山口県の山間部と日本海側が雪とは、どういうことだ。「ときどき」とか「とこ ろにより」とか、そういう曖昧な言葉を使うんじゃない。いったい何時、何処で、 如何ほどの雪が降るのか、ハッキリして貰わなければ困るじゃないか。どうにもな らない苛立たしさに憤って、慌てて加納君に電話をかけながら朝のコーヒーを流し 込んだ。
かくして、昨夜までは予想もしなかった破天荒な一日の動悸が鳴りはじめたのだ った。
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