「MGBのサスペンション・ブッシュ」

はじめに

 MGBのサスペンションは、前がウィッシュボーン+コイルスプリング、それにレバーアーム式のショックアブソーバー、後ろがリジットアクスル+4リーフスプリング、そしてレバーアーム式のショックアブソーバーを備えたコンベンショナルなデザインです。前輪にはアンチロールバーを追加した年があり、また後輪にも1976年から標準で装備されました。

 サスペンションブッシュは、金属部品がリンクする様々な箇所に組み込まれ、部分にかかる応力や衝撃を緩和しています。
 もしもブッシュが劣化すると、乗り心地が悪くなるだけでなく、ハンドリングがダルになり、異音を伴う振動が起こって、やがては金属疲労を招きます。悪くすれば足の大手術になりかねない重要なアイテムですね。
 しかしブッシュはゴム素材が多く用いられ、経年と共に劣化を余儀なくされる、いわばMGBのウィークポイントの一つでもあります。その特性を実現するために、ゴム以外の素材ではまかないきれなかった当時の技術水準が垣間見られます。
 現代ではナイラトロンやカーボン繊維を含んだ新たな素材が開発され、昔のゴム素材に比べると、ずいぶん耐久性は向上していると言えるでしょう。


ブッシュの位置

 さて、MGBのゴムブッシュは、比較的容易に交換することができます。 オウナー自身の手で交換すれば、サスペンション構造も理解できますし、ひいてはそれが思いやりある運転技術にも繋がりますから、MGBと長く暮らすためにも一度トライしてみたい整備です。エンジンなどの分解と異なり、サスペンションの一部分の分解整備で作業は完結します。さほど大がかりな工具も不要ですね。

 では、その方法と留意点など...。


 前片足についてブッシュは次のような位置にあります。

1)ロアアームのフレーム側の前後「ピボット」で2箇所。
2)アッパーアーム(アブソーバー先端)に1箇所。
3)アンチロールバーの端に1箇所。
4)アンチロールバーのセンターマウント部に1箇所。
5)ドロップリンクの下端に1箇所。


【2.アッパーアーム】はレバーアーム式ショックアブソーバーの先端にあって、アクスルの上端とリンクしている箇所のブッシュなのですが、これは他の位置に比べて劣化が少ないので交換されるケースは少ないようです。
【3.アンチロールバーの端】のブッシュはプレス圧入ですから、通常はアンチロールバーと一緒に交換します。部品としては入手できますけれど、普通のバイスではかなり抜き差しは困難です。
【5.ドロップリンクの下端】のブッシュは、(アンチロールバーの)ドロップリンクとロアアームがリンクしている箇所に付いています。しかし、これはドロップリンクに埋め込まれたブッシュなので、ドロップリンクAssyで交換しなくてはなりません。

やはり【1.ロアアームピボット】のブッシュが最もヤバイようですね。

交換の方法

【1.ロアアーム】の交換はスプリングコンプレッサーを用いる方もいらっしゃいます。が、ジャッキを使って安全に分解することが可能です。
MGBは幸か不幸かサスのストロークが短く、コイルバネが最大に伸びきった状態=サスの伸び限界という設計ですから、すなわちクルマの前部をリフトアップし、足を伸ばした格好でタイアが地上から離れたら、コイルバネにはさほどの張力がかかっていないワケです。

手順。
  1. フロアジャッキをMGBのフロントメンバにかけ、クルマを持ち上げます。
  2. シャシー馬をメンバのウィッシュボーン・ピボット、または僅かに内側へセットし、ジャッキを抜きます。これでサスは伸びきってフリーになっているワケですね。
  3. ウィッシュボーン・ロアアームとスプリングパンを止めているボルトを抜きます----そのために----パンタジャッキをスプリングパンのメンバ寄りへあてがい、止まるまでパンタを上げます。これで狙いのボルトにはスプリングの張力がかからない状態ですね。
     そうしてレンチ2本を用い、ロアアームの内側のボルト&ナットを外します。
    このとき、パンタジャッキの高さを微妙に変えながら、アームとパンの穴の位置がピタリと合わせて作業します。穴の位置がずれるとボルトを抜く際にネジ山を舐めてしまい再利用不能になりますので留意。併せて、ロアアームの外側のボルト&ナットも少しだけ緩めます。
     こうしてロアアーム内側のボルトの前後2本を抜けば、スプリングパンは、外側のボルト&ナットを軸にして、ぶら下がりますね。
  4. パンタジャッキを外し、コイルバネを抜き出します。
  5. ロアアーム外側のボルト&ナットを外します。これで前サスペンションは骨だけの状態です。
  6. アクスル下端のキャッスルナット(割りピン付きナット)を外し、アクスルを宙吊りにします。これでロアアームはピボットで止まっているだけのブラブラ状態。
  7. ピボットのキャッスルナットを外し、ロアアームを取り外します。分解は完了しました。

    #長くてややこしいッスね。お茶でもどーぞ(笑)。

 さて、次はブッシュ交換です。
 純正ブッシュ(2分割タイプ)ならば僅かに潤滑剤(C-RC556)などを塗布し、手で挿入できます。
 ヘビーデューティ仕様と言われるV8用ブッシュ(鉄心入り筒型)でしたら、手では挿入できません。同様に潤滑油を塗布し、挿入する向きにあてがって、そのままバイスで固定→圧入します。
 もしもナイラトロンなどの競技用ブッシュでしたら、バイスを用いるか、もしくは木槌と当て木で挿入します。
これで完了。

 組み付けは、基本的に分解の逆の手順を辿ります。 リンクの各部には様々なフラットワッシャーやリングなどがありますから、分解のときに順序を確認しておきましょう。それぞれにゴミ避けとか、あるいはスラスト(摩擦)分散の意味を持っていますので、間違えると故障の原因にもなりますしね。
 また分解時には、錆びやゴミのせいで、かなり緩めにくいナットもあるはずです。潤滑油を多量に吹き付け、木槌でコンコンと叩き、しばらく放置すれば緩めやすくなります。長い柄のレンチを用いるのも有用。たとえばレンチにパイプをかけて延長するのも手段です。
 ただし、組み付けのときには長い柄は御法度。小さな力で強大なトルクがかかりますから、呆気なくボルトをねじ切ってしまいます。できるならトルクレンチで規定の締め付けトルクで...トルクレンチが無ければ、手で締め込み、最後の「グッ」と締めたところまで。
 割りピンがあるナットは、余程の不運が無い限り抜け落ちることはありませんから、50kmほど走って再点検するのが良いでしょうね。

 組付けの際にも、パンタジャッキを使いアームとパンの穴の位置を合わせながら作業します。ちょっと手こずるかも知れませんけれど、位置さえ合えばスンナリと入ります。
なんか難しいようですけれど、慣れてしまえば片足の分解〜組み付けまでは、部品点数が少ないので25〜30分で完了します。

【4.アンチロールバーのセンターマウント部】のブッシュ。
 これは比較的簡単です。
 同じくリフトアップしたMGBを馬に載せ、センターマウントのブラッケトのボルトを外します。するとアンチロールバーはエンドブッシュを支点にしてぶら下がりますから、ブラケットを取って、ブッシュを交換。
 組み付けは逆の手順。
 ブッシュは1箇所に切れ目が入ったC字断面なので、潤滑油をちょっとだけ塗布すれば軍手で抜き差しできるはずです。


 えー、駆け足の説明でしたから解りづらいと思います@スンマセン。 これらの他でご懸念の箇所や手順、もしくは工具などがありましたら、どうぞご遠慮なく。


リア・リーフ廻り

「リア・リーフスプリング」です。 後ろのサスペンション形式は、アクスルを板バネで吊しているワケです。板バネのブッシュ交換をするためにバネを車体から取り外したら、アクスルが固定されない状態になります。これに留意すれば、ブッシュの交換は簡単です。


  1.  まずアクスルケースのディファレンシャル・キャリアにフロアジャッキをかけ、出来るだけ高い位置まで上げます。
  2.  次にシャシーの頑丈なところへ馬を掛け、フロアジャッキをゆっくり下げます。
  3.  デフキャリアが下がり、板バネの張力が「0」になった地点でフロアジャッキを固定します。これで車体は馬に支えられ、アクスルケースはフロアジャッキに支えられている状態ですね。板バネには重さも張力も掛かっていない状態です。
  4.  アクスルケース端でアクスルと板バネを固定しているU字ボルトを外します。板バネを挟んで数枚のプレート(サスのロアブラケットなど)がありますから、順序や方向を記憶しておかなくてはなりません。
    「U字ボルト」が外れたら、アクスルと板バネは切り離され、アクスルはペラシャフトとフロアジャッキで固定されていることになります。あまり激しく動かさないほうが良いですね。(笑)
  5.  板バネの切り離し。
    板バネの真ん中辺りにパンタジャッキを差し込み、分離した際に落下しないよう支えます。かなり重いモノですから、これは必須ですね。
  6.  ます、板バネ後端の「シャックル」を分解します。「シャックル」は板バネのたわみによる全長の変化を吸収する自在手みたいなモノで、そのブッシュは傷みも顕著と思われます。
  7.  シャックルが外れたら、板バネは前端のアイポイントで繋がっているだけの状態になります。あと一歩で分解完了。
  8.  パンタジャッキを一旦外し、今度は板バネ前端のアイポイント近くを支えます。そしてアイポイントの貫通ボルトを抜きます。これで切り離しはできました。
  9.  ブッシュ交換。
    「シャックル」は損傷が無いことを確認し、2分割のブッシュを挿入します。これはC-RCなどを薄く塗布するだけで、手で挿入できます。
    前端のアイポイントに入っている「アイブッシュ」は、かなり強い力で挿入されたプレス圧入部品ですから、交換は難儀です。しかし構造的にアイブッシュの傷みは少ないので、ほとんど場合は後端のシャックルブッシュだけを交換するようですね。
    むしろシャシー側のアイポイント・ブラケットの損傷を点検したほうが良いと思います。

 さて、シャックルブッシュだけの交換でしたら、なにも板バネを切り離す必要はありません。シャックル部分だけを分解すれば、点検、交換ともに容易にできます。
上記手順のうち、氈`」まででシャックルは分解できますから、点検交換の後、逆の手順で組み付けて完了。

 再利用するボルト&ナットは、使っている間にネジ溝が摩耗してきます。規定のトルクで締め付けても緩んでくる可能性もありますから、規定トルクの10〜15%増しを目安に締め付けます。できれば新品を用意したいところですね。安価なモノですから...。

 80年代になって重宝がられた「ナイロックナット」の再利用について。
 ワッシャー不要を謳った「ナイロ...」は、ナット上部の樹脂が潰れて摩擦係数を保つ仕掛ですから、一度使用したモノは原則的に再利用が出来ないモノです。しかし勿体ないので使ってしまうワケで、そのときはスプリングワッシャーを併用すればチョイ安定します。

#まんま使って何度酷い目に遭ったか。(爆)


おわりに

 ブッシュがしっかりしたMGBは、ハンドリングに劇的な変化をもたらすはずです。もちろんタイアとサスペンションジオメトリーによる相対的なバランスではありますけれど、もしそれまでのコーナーで「グワシャ、ぶにゅ...」という感覚があったら、きっと生まれ変わったようにシャキっとするはずです。
 コイルバネやスタビライザーのレート、ロールセンターの高さ、材質の異なるブッシュも、乗り心地----ハンドリングの感覚を変えるアイテムですね。尤も競技用部品は、すべからくシャシーを苛めますが...。


では、成功をお祈りしています。

(~m~)でした。

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...以上です。